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母の遺したもの 母の味⑤

11月 朝鮮漬け 11月になって白菜が出回ると、母は「朝鮮漬け」を作った。白菜は「花芯」という、一足早く出回ってすぐになくなる品種でなければ駄目だそうで、花芯が出るとすぐに何株も買い込んだ。
「朝鮮漬け」と呼んでいたが、今ならキムチだろう。でも、韓国直送のキムチとは似て非なるものだった。だいたい色が白く透きとおっていて赤くない。韓国の粉唐辛子ではなく、鷹の爪を薄く輪切りにして使っていたためだろう。
「アミの塩辛は絶対入れなきゃ。」と言って、上野のアメ横までわざわざ買いに行っていた。その他、人参、ネギ、生姜、にんにく、桜海老・・・などが入っていたように思う。キムチより酸味が強く、日がたつと発酵してサイダーが発泡しているような食感がたまらなくおいしかった。10日ほどで味が変わってしまうので、一冬に何度か作っていた。正月も過ぎ、余った餅を揚げ餅にして大根おろしの上に乗せ、しょうゆと朝鮮漬けの汁をかけて食べる、あの味を思い出すと、今でも口の中につばが湧いてくる。

朝鮮漬けの他に、白菜漬けも桶いっぱい作った。にんにくと唐辛子を間にはさんで、ざっくり切った株のまま漬ける。1日でびっくりするくらいの水が上がって来た。白菜の芯のところが飴色に透きとおってきたころの白菜漬けは、朝鮮漬けにはないシンプルなうまみで、それだけでご飯が何杯でも食べられた。

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織りと人形作りと編み物だけでは飽き足らず、母は小さな「浮気」を何度かした。テキスタイルの個展を2度も開催して母が織りをする人だということが知人の間では広く知れ渡っていたころ、客に来た方が
「今は何を作っていらっしゃるんですか?」と聞いた。母は、
「今、これよ。」と言って、大きな木の皿を指差した。皿の上には何も乗っていない。客が怪訝そうな顔をすると
「一刀彫りよ。」と、得意そうに言う。いろいろな彫刻刀を使い分けず、たった1本の刀で作品を彫り上げる一刀彫りが好きで、娘の初節句にも一刀彫りのお内裏様を買ってくれた。それを、今やっているというのである。刀も出して来て見せていたが、道具や材料には金を惜しまない母らしく、銘の入った大変高価なものだった。
父は常々、そんな母を「移り気すぎる。あれじゃ、趣味の域を出ることはできないんだよ」ということを批判的に言っていた。私は、それぞれの領域が、趣味以上のものになっていて、個展などでは次々と売れて評判になるほどなのだから、いいじゃない、と思っていたのだが、そのときばかりは脇で見ていてさすがに「ちょっとなぁ~。」と呆れる思いだった。
一刀彫りはしかし、その「何も乗っていない大皿」1点で終わったようだ。(あの高価な刀はどこへ行ったのだろう)
次に「浮気」したのがビーズ織りだった。

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◎ビーズ織りのネックレス。カード織りとも言っていた。いくつも穴の開いたカード型の道具に糸を通して、織るように作っていた。歳をとって、大きな織り機で敷物などを織るのが大変になったから始めた、というのが理由だった。

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◎ブローチ2種。セーターの胸元などにつけると引き立つ。

その他、ハンドバッグや財布など何点か作ったが、テキスタイルの膨大な作品数には比ぶべくもない。
ビーズ織りもやらなくなってほどなく、織りはもうやめたと言って、6畳の母のアトリエを占領していたスウェーデン製の織り機や糸紡ぎ機など一式を造形大に寄付してしまった。

by pataponm | 2009-02-25 17:58 | 母の遺したもの  

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