クレームがつけられない

私は、クレームというものをつけられない人間らしい。相当「ひどい目」に会っても「反論されて余計嫌な気持ちになるのではないか」「論破するだけの証拠もないし」などとくよくよ考えて、黙って引き下がってしまうのだ。

10年以上前に親知らずを抜いたときに「ひどい目」に会った。近所の歯医者ではできないため、大学病院を紹介されたのだが、そのときの担当医が乱暴な人で、ものすごい怪力で無理矢理親知らずを抜こうとしたのだ。あごがはずれそうになり、私は両手であごを支えなければならなかった。悲鳴を上げているのに医者は「(あごが)はずれたか」と言っただけ。
ようやく抜けたはいいが、力余って手がすべり、上あごの奥を傷つけてしまった。1針縫うことになったが、喉に近い、肉が柔らかくなっている部分だったので、ちょっと触れられただけで吐き気がきて「おえっ、おえっ」となってなかなか縫うことができない。医者は「困るんだよなぁ、(そのおえっとなるの)がまんできない?」と不機嫌そうに言った。
吐き気をこらえたために涙がぽろぽろ、どうにか縫えたが、あんなに苦しかったことはない。
治療が終わったとき、私は「今日の診療費は払えません。喉を傷つけたのはそちらの医療ミスですから」と言おうと思ったが、事務的に次の患者の準備を始めている医者や看護師に立ち向かう勇気が出ず、そのまま会計の窓口に行った。会計は5000円だったか6000円だったか、明らかに親知らず1本抜いた金額より多かった。
でも、治療直後に何も言えなかった私だから、歯科に戻って行って文句を言うことなどできるわけがない。そのまま言われた額を払い「ひどい目にあった」と思いながら家に帰ったのだ。
このことで私は歯医者恐怖症になり、反対側の親知らずをその後何年も抜くことができなくなってしまった。とうとう隣の歯が虫歯になって痛み出し、仕方なく別の歯医者に行った。以前の経験を話したら、穏やかで優しそうな先生が「ゆっくりやりましょう」と言い、時間をかけて少しずつ抜いてくれた。信じられないくらい痛みもなく、もちろんあごがはずれることもなく、親知らずを抜くことができた。抜けたときに静かに「取れました」と言い、(抜けた)という言葉さえ使わないようにする心遣い。
でも、虫歯になってしまった隣の歯の治療に随分時間とお金がかかってしまった。それも最初の乱暴な治療のために怖くて歯医者に行けなくなってしまった・・・つまりあの医者のせいだと思っている。


もっと若いころ、初めて家を離れて独り暮らしを始めたときのことだ。引っ越しが終わって数日後、狙っていたかのように新聞の勧誘が来た。新聞をとってくれれば時計をくれると言う。とてもしつこいし、時計というのは豪勢だな、とつい思ってしまって契約した。
ところが、翌日から来るはずの新聞が全く配達されない。手配するのを忘れたのかな、でも、もともととる気はあまりなかったのだからまあいいか、でも時計だけもらっちゃって悪いな~、などと思いながらそのままにしておいた。
そうしたらなんと、1ケ月後のある朝部屋のドアを開けたら、目の前にひもでくくられた新聞の山が二つ、1ケ月分の新聞がどんと置かれているではないか。既に発行された1ケ月分の新聞、つまりそれはもう「新聞」ではなく「新聞紙」、「古新聞」と呼ばれるものだ。ひもでくくられてしまえば「ごみ」だ。
クレームをつけようにも仕事が忙しくて電話をかける暇もなく、だいたい契約時の受け取りを捨ててしまったため販売店の電話番号も分からなかったので、「ひどいな」と思いながらまたそのままにしておいた。
すると翌週の休日、なんと新聞代金を集金に来たのだ。そして私はなんとそれを支払ったのだ。理由は、新聞を契約した勧誘員と集金に来た販売店の人が別人だったから。話しても信じてもらえないのではないか、ひもでくくったのを見せても「あなたがくくった」と言われればそれまでだし・・・。
私にできたせめてもの抵抗は、「来月から新聞いりません」と言うことだけだった。
景品でもらった時計は、電池は使えずコードをコンセントに差し込むもので、「ブ~~~~ン」とすごい音がひっきりなしに鳴るしろものだった。夜も眠れないほどの音、かといって夜だけコードを抜いたら時計の用をなさないし、ほどなく捨ててしまった。

◎地元のメンバーで音楽の練習をするときによく利用する隣の市の市民会館。会館前の広場にこんなオブジェがある。ひもでくくられた巨大な新聞紙のブロンズ。ひもも作品の一部でブロンズだが、そこに「これは芸術作品ですので、登ったりして遊ばないでください」という札がかかっているのは会館の人の手によるものだ。
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◎高さは3メートルはあるだろうか。新聞の文字も克明に刻まれている。
こんなものを玄関先に置かれたら、さすがの私もクレームをつけるかしら。
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by pataponm | 2010-06-15 13:44  

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