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謎の持病

私には、子供のころから続く原因不明の持病がある。
何の前触れもなく、視野の中心近くに小さな光の輪が見え始め、それがギラギラと光るようにしてどんどん大きくなっていき、光っている付近の物が見えにくくなる。30分から1時間ほどで自然に消えるのだが、そのあとひどい吐き気に襲われることがある。娘時代には月に何度も起きて、学校の帰りに駅のホームで吐いてしまったこともあった。
同じ症状で悩んでいる人に会ったことがなく、風邪や他の病気で医者にかかるたびに聞いてみるのだが、「視神経の病気・・・」「血液の病気・・・」「心因性のもの・・・」に「じゃないですかねぇ」を付け、首を傾げながら当てずっぽうのことを言われるばかり。

芥川龍之介の小説に、主人公がこれと同じ症状に悩まされる「歯車」という短編がある。タイトルの「歯車」は、ぎらぎら光る輪が光の歯車のように見えることからつけられたものだ。
高校生のころこれを読んで「同じ症状だ」と思い、「芥川並みの感受性と文才があるってことかな?」なんて的外れなことを思ったりした。

半日安静にしていれば治るし相談した医者も軽く受け流すという態度だったので、特に精密検査を受けるとか積極的治療を受けるということはせずに長い年月を過ごしていた。
インターネットが普及するようになったころ試みに検索してみたら、全く同じ症状で原因が分からずに悩んでいる人が、少数だがいることが分かった。中には「これって、超能力?」なんて思っている人も。でもネット上でも「失明するの? 脳障害?」と不安が渦巻いているだけで、疑問が解決するような書き込みは見つからなかった。

まあ、日常生活にさほど支障はないのでいいだろう、と私も呑気なものでそのまま放置、またしばらく年月がたったある日、ひょんなことから一気に疑問が解決した。
新聞の集金のときに領収書と一緒についてくる薄い情報誌の中に健康相談のコラムがあり、そこに私と同じ症状の病気についての解説があったのだ。

病名もついていた。
「閃輝暗点(せんきあんてん)」という。閃光のように輝き、暗闇の中の点のように光る・・・
この4文字を見ただけで、一瞬頭の芯がキーンとなり、例の症状を誘発しそうになった。それほどこの病名は症状そのものを的確に言い当てている。
そのコラムに、閃輝暗点は偏頭痛の前駆症状として起こると書かれていた。脳の視覚野の血管が収縮し、一時的に血の流れが変化するためと考えられているそうだ。自分は頭痛持ちではないと思っていたので「偏頭痛」とは意外だった。
閃輝暗点に特に治療法はなく、頭痛薬を飲んだり安静にしたりする対処療法しかないようだった。

それでも、ともかく病名と原因が分かり、重篤な病気ではないこともはっきりしたので気が楽になった。それに、若いころは頻繁に起こった症状も、歳と共に減ってきて、最近はたまにあっても短時間で消えて吐き気などの症状に移行することはなくなってきている。

それにしても、新聞集金のおまけに付いてくるぺらぺらの小冊子にあまり人に知られていない病気の解説が書かれていたとは。私が相談した何人もの医者の中には、大学病院の医長先生クラスの人も含まれていたのに誰一人正しく診断できなかったのだ。

この記事を書くにあたって、久しぶりに「閃輝暗点」をネットで調べてみたら、128000件もヒット、ウィキペディアにまで詳しく解説されていた。知名度が大分上がったのかな?

◎きれいな空をぼんやり眺めたら、閃輝暗点の発作も減るかしら。
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(2010.10.11)

by pataponm | 2010-11-05 15:33 | 言葉  

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